80代高齢女性に40日で退去していただき、相続税納税資金と新築資金を捻出
- 【時期】
- 平成30年9月
- 【分類】
- 借地権の売買
- 【場所】
- K県Y市
- 【内容】
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相談者は20代の男性M様です。昨年11月に父親が急死し、不動産を相続することになりました。紹介者は当方が15年以上前からお付き合いをいただいている60代の男性で、M様の叔父にあたるO様です。O様も3年前の暮れに実母を亡くされ、3億円以上の相続税納税資金を土地の売却によって調達せざるを得ない事態となり、当方が担当させていただいた経緯があります。
相続した不動産はかつてM様の祖父が取得した借地権付き建物とお父様が取得した底地です。M様のお父様の代に土地は完全所有権となり、その上に居宅(相続時点では空き家)と共同住宅がありました。どちらも昭和30年代の建物で、老朽化が著しく、20代のM様にとって重荷になりました。共同住宅には80代の男性と女性が1名づつ居住していました。そのうちの男性が本年3月に病気で入院することになり、共同住宅を退去することになりました。
そんな折にO様からM様の相続の相談を受け、本年4月に現地を視察しました。当方は相続不動産の評価をも担当することになり、利用区分の実態把握と、今後の処理方法を考案するための現地調査でした。最寄駅からは徒歩30分程度を要しますので、O様とタクシーで移動しました。テープをあてて簡易測量を行い、利用区分を把握した後に共同住宅に居住する80代の女性(T様)宅を訪問しました。T様は我々の顔を見るなり、「私はここを出て行きたくないから」と言われ、当方が話をしようとするも、拒絶されました。
その後、土地の相続税評価作業を終え、5月下旬にM様にお会いしました。その際、不動産の相続税評価、売却した場合の想定価格、売買方法に関してご説明をいたしました。O様は80代の入居者に転居していただくことは極めて困難であることから、共同住宅部分を残して自宅部分のみの敷地を売却し、何年か経過後にT様が退去してから共同住宅部分の敷地を売却するプランを提案されました。その場合は敷地全体を売却する場合に比べて、売却価格が安くなってしまうというデメリット(地形により)があります。そのため、M様は敷地全体売却を希望されました。M様は不動産を相続してから、共同住宅の居住者から家賃を直接徴収していましたので、T様とは何度か顔をあわせています。
6月中旬にM様の遺産分割協議を終え、その足で、T様及びT様の入居の際(20年前)の仲介会社である不動産会社を訪問いたしました。不動産会社からT様の情報をヒアリングしようと思いましたが、ほとんど目新しい情報はなく、その後、T様宅を訪問し、次週のアポを約束していただきました。
M様とともにT様及びT様の知人と面談をし、相続税納付のために移転していただく必要を説明しました。T様に一方的に拒絶されると想定していましたが、「移転先があれば転居はやぶさかではない」との発言をいただきました。ただし、移転先の条件は大変厳しく、家賃4万円台で半径500M程度以内の1階というものでした。
当方はレインズ等に掲載されている賃貸物件をあたりましたが、やはり80代の独居女性(しかも生活保護受給者でない)の入居を承諾してくれる会社は皆無でした。そこで、地元の不動産会社に人脈のあるO社(後に敷地全体の購入者となる)のF氏とH氏に相談をし、移転先を探してもらいました。
F氏はさっそく7月第一週に移転候補を見つけ、T様と友人に内見していただきました。希望の1階ではありませんでしたが、現在地よりタクシーでワンメーターの距離にあり、水回り等も新品に換えられており、T様の知人及びT様には気に入っていただけたように思えました。しかし、入居者審査に通らない可能性を危惧して、T様には生活保護申請をしていただくことをお願いし、その日は別れました。
生活保護申請をする当日(月曜日)になり、T様は「猛暑で具合が悪くなり、動けない。また近所のアパートK荘に空室があると新聞配達人に教えてもらったので、できればそこに入居したい」とドタキャンをされました。その日からF氏は毎日、K荘(T様居住地から50m程度の至近距離)を訪問(1階に家主が居住)し、置手紙を残しました。しかし、なしのつぶてです。その週の土曜日に善後策を話し合うためにT様と話し合いをしました。T様は現金がそこそこあるために生活保護の受給が困難であることが判明し、再度、移転先の条件を話し合い、別れました。
すると、K荘の家主がベランダで洗濯物を干している姿が目に飛び込んできました。急いで、彼に事情を説明し、T様とともにK荘の部屋を内見させていただきました。T様の現在の部屋よりは暗いものの、部屋の大きさは同等か少し広く、T様に気に入っていただきました。問題は家賃ですが、K荘の家主は現賃料と同額の4万円でOKと発言し、T様と当方は小躍りして喜びました。不動産会社が間に入らずに、入居者と家主が直接、賃貸契約を締結することになり、賃貸契約書を預かりました。そこには連帯保証人の欄がありますので、T様の知人にお願いをしました。すると、「熱中症になり、保証人にはなれないと」のつれない回答がありました。契約締結日が翌週に迫っていましたので、みつからない場合には当方が保証人になることを覚悟していましたが、T様居住地の通りをはさんだ目の前にある戸建て住宅のご主人が保証人になってくださるとのこと。T様が昔、ご主人の義理母の介護を無償でされていた恩を覚えていてくださり、T様の窮状を知るにつけ、保証人として名乗り出てくださったのです。
無事に賃貸借契約書をK荘の家主に渡し、鍵を受け取って翌週の水曜日に部屋の大掃除を、、3名が一日がかりで行いました。その後、F氏がT様が調達したカーペットと当方が用意したLEDライトを設置し、入居スタンバイの状態となりました。T様にも見ていただき、きれいな状態になったことに満足していただけました。
そして8月1日に無事に引っ越しを行いました。引っ越し屋及び電気水道ガスの手配はすべて当方が行いました。そして当日はF氏、H氏も引っ越しのお手伝いをし、無事に転居していただくことができました。そしてその翌日は、当方がT様とともに役所に出向き、住民票の移動、健康保険の手続き、年金の手続き、銀行手続を完了させました。
移転交渉開始からわずか40日程度で、すべてが完了しました。不可能と思えた移転を想定外に早期に完了させることができたのは、ひとえにT様の人柄によるものでしたが、F氏、H氏、K荘の家主、保証人になってくださった方の協力の賜物です。
その後、土地の測量、境界確認、建物の解体、建物の滅失登記を完了させ、本日、M様は土地をO社に引き渡しいたしました。M様は他所に土地を購入し、家を新築して来年3月に入居いたします。今回の売却資金で相続税を支払い、そして新築住宅の購入資金に充当することができます。
今回は正の循環が働き、早期の問題解決が可能となりましたが、逆の循環になることも多々あります。不動産を負動産にしないためには専門家の協力が不可欠と思います。
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