再建不可の借地権を従兄弟の地主に有償返還
- 【時期】
- 令和4年2月
- 【分類】
- 借地権の売買
- 【場所】
- 都内H市
- 【内容】
- 今からちょうど1年ほど前に70代の父(A様)と40代の子供(男性でB様)が当相談室を訪問しました。A様の借地権は都内近郊の幹線道路に面している約90坪の土地の一部で、道路から25M以上も奥まった部分に存在していました。親の代からの借地権で、現地主はA様の従兄弟で同じく70代とのことです。幹線道路に面した土地の一部は、平成4年に都市計画道路として東京都に収用され、それを機会に現地主の親は、幹線道路に面した部分に賃貸併用住宅(賃貸マンション)を建築しました。A様はその建て替えの際に、現地主の親(正確には依頼を受けた建設会社)から多額の立退料(借地権買い取り料)を支払うという提案があったと語りました。しかし、それは実現せずに、今日に至っています。A様はお元気そうな様子でしたが後期高齢者となり、終の棲家を新たに確保したいという希望を持っていました。数年前に奥様を亡くし、老朽化した広い家(約30坪)は一人住まいには大きすぎるようです。
A様との面談を終え、役場及び現地調査をすると、問題点が浮かび上がってきました。A様の建物は建築確認申請をしていないこと、建築基準法上の道路と2M接しておらず、再建築ができないことが判明しました。
2回目の面談で、この事項(A様の借地権が無道路借地権であること)をA様とB様に伝えました。現地主の親が建て替えをした際に、A様の再建築条件に配慮しなかったことが問題であると憤慨をされました。こういった借地権者を第三者が購入する可能性は極めて低いこと、地主に買い取っていただくことを優先すべきことを説明しました。地主が買い取った場合でもその地に建物を建築することはできないため、庭や自身の賃貸マンションの入居者用の駐車場として利用するほかに活用法がないと思われました。したがって、地主の買い取り予想価格も通常よりもかなり低くならざるを得ないことも説明いたしました。これを聞いたB様は、「こんな借地権を自分は相続したくない。相続後に放棄をする予定である旨を地主に伝えてほしい」と言いました。A様は地代を現地主に半年ごとに持参して支払っているそうですが、全く会話もせず、外で会っても挨拶もしない状態であると言いました。
このような状態で、果たして地主は交渉に応じるのかという不安がありましたが、面談のために手紙を郵送しました。その後、地主から回答があり、地主の自宅にて面談をする運びとなりました。自宅は賃貸マンションの最上階にありました。部屋前で挨拶をした際から地主は興奮状態にあり、当方を追い返す勢いにありました。しかし、何とか部屋内に入れていただき、面談が始まりました。開始後、数分で若い女性が面談に加わりました。後からわかったことですが、彼女は同じマンションの1階に居住している地主の長男の嫁様でした。面談の開始後から、地主はA様の悪口を延々と語り始めました。庭に鯉を飼っていて水浸しにしていること、鉄パイプなどの造作物を勝手に設置していること等の苦情を大声で語り、当方が口を挟もうとすると追い返す素振りを見せました。そのたびに嫁様が地主をなだめ、何とか面談は継続できました。当方から地主の賃貸マンション建て替え時にA様へ一定額での立退料の支払い提示があったこと、A様の借地権の再建築条件への配慮がなかったことを説明しました。それを聞いた地主は一段と怒り出し、「A様が多額の立退料を要求した。権利金もとらず、安い地代で貸し続け、A様への配慮を継続して来た」と主張しました。またA様の借地権を第三者に譲渡することは不可であることも告げました。当方からA様の借地権を買い取ってほしい旨を伝え、後日、価格に関して書面で提示することを約して終わりました。時計を見ると2時間近くの時間が経過していました。
後日、A様及びB様と3回目の面談をし、地主との面談内容を伝えました。B様は驚き、またかなり落胆していました。その際、裁判時に使用する地主の買い取り請求権の価格(このケースの場合は借地権価格とは異なり、場所的利益価格+建物価格)を伝え、同意をいただきました。それを書面化し、地主に郵送して回答を待ちましたが、期限までに応答はありませんでした。
期限から1か月程度経過した後に、ある不動産会社(Z社)から「地主から依頼を受けて交渉をしたい旨」の連絡がありました。後日わかったことですが、嫁様がZ社を探し出して依頼したそうです。Z社と数回交渉を重ねた後、条件面の折り合いをつけることができ、昨年末に借地権の有償返還に関する合意書を締結することができました。そしてA様は新たな住まいを見つけることができ、2月中旬に転居しました。
Z社が権利調整に長けた会社であったため、数回の交渉で合意に至ることができました。これでB様の懸案だった相続放棄の心配はなくなり、お褒めの言葉をいただくことができました。初回面談で烈火のごとく怒りを露わにしていた地主も、更地になった土地を眺めてほっとしている姿を想像できます。本件も難儀をいたしましたが、初回面談から1年間で解決できたことに安堵いたしました。
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