建物が焼失し借地権を地主に買い取ってもらった
Aさんは都内の地下鉄駅から徒歩5分程のところにある約40坪の借地権付建物(住宅)を10年前に取得し、子供と生活していました。子供が誤って石油ストーブを転倒させ火災となり、建物が全焼することとなりました。建物には借入残が約2千万円程残っていましたが、保険によって清算することができました。
当該土地一帯は地主S氏が所有し、T差配が管理業者として地代等の管理を行っていました。建て替えて住むことは火事で迷惑をかけた近隣の手前できないと考えていた借地人は、この管理業者へ共同住宅(アパート)を建築すべく承諾をお願いしましたが、S氏から”自己居宅以外はダメよ”との返事が返ってきました。そこで、借地人としては売却も視野に入れた上で、弊社へ相談に来られました。
現在は焼失後建物を解体撤去して更地の状態となっています。まず、ここで問題となるのが借地権の譲渡にあたり、地主の許可が得られるかどうかにあります。換金化だけを目的とするならば、地主に買い取ってもらうことと天秤にかける方法もあります。しかし、地主が借地人の建物滅失をチャンスと考え安く買い取るために意地悪してくることも予想されます。
Aさんが当該借地権を7年前に前借地人から取得した経緯を考えれば、地主から譲渡の承諾を得ることはそんなに難しいとは考えていませんでしたので、Aさんの依頼を安易に引き受けてしまいました。
丁度そのころ、差配からAさんへ「地主がそれなりの価格で買取る用意があるので、自分に任せてほしい旨の話がされていました。ところが、自分に相談なく別の業者(当社)へ依頼した事に腹を立てたT差配は、Aさんに対し、「この話はなかったことにしてくれ」と通告しました。私も事前に打ち合わせをしておけばよかったと思いましたが、まさかこのような事態になるとは想定できませんでした。
借地権者は借地権を売却するのであれば、出来るだけ高く売却することを望むはずです。そのために地主の買取金額を踏まえておくことは大切なことです。第三者へ売却する場合には、名義変更承諾料や購入者における建築時の承諾料が売買価格から値引きされます(譲渡者の負担となります)ので、手残りの売却残代金は少なくなります。地主との関係が拗れると、今後全てのことが任意の話し合いで決められなくなる可能性がでてきます。
当該物件はその後、当社が第三者の買主を見つけてきましたが、地主としては先買い権を行使してまでも買い取るということを主張してきました。第三者に売却する場合には分筆等の問題もありました(購入希望者の要望)ので、結果的に路線価の借地権割合で地主に買い取ってもらうことで決着しました。
借地権売買のポイント
- 借地権の売買には、地主の承諾が必要です。
- 地主が譲渡に承諾しない場合には裁判所に代わりの許可(借地非訟)をもらうことが必要です。
- 現状のまま活用するのであればリスクは少ないですが、購入者が取得後増改築等を行う場合は再度裁判所に代わりの許可をもらわないといけない可能性が高いです。
- 借地権の購入者が金融機関から融資を受ける場合は、地主から承諾書を任意に取り付ける必要がありますが、裁判所に代わりに許可をもらった場合、地主の協力を得られない可能性が高いです。
- 購入者の協力を得て借地非訟によって譲渡しようと考えても、地主が先買権を行使した場合は、購入者は徒労に終わる可能性があります。
- このような一時金負担や取得について不確定要因が多い財産には、金銭的に相当なメリットがない限り、購入希望者は現れないと考えるべきです。
(注)上記の承諾書等の書類は当サイトの関係書類ダウンロードサービス(要・メール会員登録)にて入手することが可能です。
地主のタイプ別攻略のポイント
1.機会があれば貸地を返還してもらいたいと考えるタイプ
このタイプは何が何でも土地を返還してもらいたいと考えているので、交渉には十分注意を要します。借地人が単に換金化を目的としている場合は、事前に購入者を見つけることにより、地主に借地権を高く買い取ってもらう結果となることもありますが、一つこじれると借地非訟事件となる可能性もあります。
2.借地権の譲渡に対して理解のあるタイプ
このタイプは話し合いによっての解決が見込めます。一般的な承諾料を提示することによって、名義変更等に応じる可能性が高いのです。相手が迷っている場合は、賃料の値上げや、測量等将来に役立つ付加価値を提案すると早い決断をもらえる可能性が高いのです。
3.底地として保有することを得策とは考えないタイプ
このタイプは、これまで貸宅地の管理に苦労していることが多く、機会があれば、整理して他の財産へ組み替えることを考えていますので、思い切って底地売却の意向を確認しては如何でしょうか。一団の貸宅地であれば、一体の整理に結びつく可能性もあります。
4.コンサルタント業者(差配)がついているタイプ
この場合は地主と業者の関係にもよりますが、業者が長年信頼を得て差配的立場にある場合は、借地人がいきなり他の業者へ依頼すると、譲渡の許可を得られない可能性もあります。よって、事前に差配に相談し、その上で第三者への売却が可能とわかれば、他の業者へ依頼すべきと考えます。
近年、相続対策またはその他依頼によって管理しているコンサルティング業者が地主についている場合は、地主に不利益でない話しは通る可能性が高いと思われますので、事前に準備をしてその業者と面談できれば、調整は可能と判断します。