借地権の譲渡を拒む地主を説得し、印刷工場を近隣の第三者に売却

Aさんは印刷工場として18坪の借地権を保有していますが、自身の高齢化と事業不振によって借地権付き建物を処分したいという意向をもっています。

土地賃貸借の状況:

月額賃料(地代)は36,000円(2,000円/坪)と高額であり、昨年10月に更新料を144万円支払って更新したばかりです。地主は10年程前当該地を含む約100坪の土地を相続した60歳代の女性です。この女性は非常に金銭欲が強く、付近一帯はこの女性の実家であるK家が所有しています。そんな事情もあり借地人はこれまで地主の言いなりになってきた経緯があります。

方法論:業者への売却か個人への売却かを見極める

借地人としては直ぐに換金したい事情がありますが、何時売れるかわからない状況では、地代を含め負担は相当なものです。しかし、業者がこのような借地権を安易に買い取ると、商品として流通出来ない場合は、リスク負担を業者が負うことになります。このリスクを避けるためには地主と面談して取り決めをすることが必要となります。

借地人の意向

Aさんは営業を停止して、わずかながらの年金(基礎年金)を受給して生活しているため、できるだけ早く借地権を換金化したいという意向を持っています。

物件の状況

  1. JR駅から徒歩5分の好立地
  2. 周りも借地が多そうで古い建物が連立する地域
  3. 対象地は公図で確認すると1筆の土地の一部
  4. 道路は西側と南側の角地となりますが南側道路は2項道路でセットバックが必要
  5. 近隣には特に嫌悪施設等も無く問題なさそうです

問題点

  1. 近隣の借地人からのヒアリングによると地主は底地を売却することはない様です
  2. 当該借地権付建物は現状(印刷工場)での売買は困難であり、住宅等の建て替えによる利用が必要(地主による名義変更・建替の承諾が必要)です。
  3. 再建築の場合、南側道路により約1坪のセットバックが必要で、有効宅地は実質17坪となります。
  4. 当該地の最有効使用は戸建住宅ですが、戸建住宅の場合の地代は坪当たり1,000円程度となりますが、地主に地代36,000円→17,000円の減額を納得させるのは困難のようです。
  5. 利用区分ごとに分筆されていませんので、隣接借地人との境界の協議が必要であり、場合によっては分筆を御願いしなければなりませんが、費用負担が持ち出しとなりそうです。
  6. 弊社の見積もりでは、借地権売却後は手取額760万円となりますが、本人希望は1,000万円です。
    (見積もり)

    借地権価格はエンドユーザー価格で1,020万円(60万円/坪)
    建物取壊し費用が100万円
    測量費用が30万円
    地主の承諾料が100万円
    仲介手数料30万円
    手取額=1,020万円-100万円-30万円-100万円-30万円=760万円

交渉経過

  1. Aさんに調査結果を説明し、760万円でなければ売却の仲介を受けられないことを伝えたところ、了解を得ることができました。
  2. 地主のKさんに面談し、底地と借地権の同時売却または借地権の譲渡についての話し合いに入りました。Kさんは予想通り底地を売却するより現状のまま保有する方が収益があると考え、売却には難色を示しました。また、借地権譲渡に関する名義変更・再建築については150万円程の承諾料を要求してきました。ただし、一旦業者が抱えても1回の名義変更料でかまわないことは承諾しました。
    測量について最初難色を示していたものの費用はAさんと折半することに合意し、地代については、現状の高値を変える意識はありませんでした。
    この状況では借地権の売却は困難なことから、後日改めて話し合うことにしました。
  3. Kさんは数回の面談後も変化する様子がありませんでしたので、借地非訟による承諾を説明しました。
    通常であれば私はもう少し粘り強く交渉しますが、Aさんが半年前に高い更新料を支払っているにも関わらず、こういった対応をされたので、借地非訟を説明したのです。確かに、借地非訟は時間と費用(弁護士)がかかりますが、それを差し引いても地主の要求より条件がよくなると予想されたのです。

当方の提出した条件

借地権譲渡による承諾料を100万円、新しい地代を居住用賃料として月額17,000円にしていただくことを希望しました。
たまたま近隣アパート居住者が居宅として購入を希望(借地権を取得した後に建物を建て替え)したこともあり、この方に借地非訟の協力を仰ぐことを考えました。
問題は借地権の購入者が融資を受ける場合、地主の承諾が必要となることです。しかし、この購入予定者は2,500万円の現金を所有しているとの事であるから、融資の必要はなく、建物建築資金分も十分に確保できています。よって借地非訟という手段に出ても問題はありませんでした。

結果

Kさんも借地非訟では余り分がよくないことを理解したようです。そこで借地人も非訟事件では弁護士費用が持ち出しになることや3~4か月現状が続くことを考慮して、結果的に承諾料を150万円支払い、新しい地代を月額17,000円とすることで合意することになりました。
承諾料は予算を50万円オーバーしてしまいましたが、Aさんは他の地で無事にリタイアメント生活をおくることができました。
地主の対応がいかに借地権譲渡に影響を及ぼすのかをまざまざと知り得た事例でした。

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