相続対策の失敗で債務超過に陥った借地権者を救済

バブル時の相続対策

都内商業地の幹線道路沿いで薬局を営むH家は借地権付き建物の所有者でした。Hさんは2代目で、父親は10年前に亡くなり、母親と妻子と当地で暮らしていました。Hさんは自身のメインバンクであるB銀行の行員から、相続税の話を聞きました。当地は商業地に面しているため、相続税評価の際の路線価はとても高く、しかも借地権割合が8割もあるので、母親に相続が発生した場合には多額の相続税が発生してしまうという説明を受けました。
相続税がかかるのは地主だけであり、借地権者である自身には無縁であると思っていたHさんは大きなショックを受けました。銀行員は、「相続税評価額を下げれば、相続税がぐっと減少します。銀行から借金をして、商業ビルに建て変えれば、良いのです。2階~6階をテナントに貸せば、家賃収入が入ってきますので、それで融資に対する返済をすることができます」と畳みかけるように説明しました。Hさんは一晩考えた上で、この銀行員のプランに同意することを告げました。すると、銀行員は待っていましたとばかり、建築士とゼネコンの担当者を紹介し、商業ビルの建設が一気に進んでいきました。結局、ビルの建築費は7億円係り、全額をB銀行がHさんの母親に融資しました。Hさんは母親の連帯保証人になりました。銀行のプランによると、家賃収入が4,300万円あり、融資への返済額4,000万円を楽に返済できるという内容でした。

商業ビルが竣工し、数年の間は銀行のプラン通りに事は進み、Hさんもこれで相続対策は万全であると胸をなでおろしました。

バブルの破綻で家賃収入が激減

Hさんがほっとしたのもつかの間であり、バブルの崩壊により、テナントは次々と退出してしまい、新規の募集をしても入居者は見つかりませんでした。空にしておくよりは良いだろうと思い、賃料を徐々に引き下げますが、それでも空室率の改善は見られませんでした。
家賃収入はとうとう1,800万円と当初の4,300万円から激減しました。
B銀行への返済も滞りがちになりました。B銀行の担当者はバブル時の担当者から変わってしまい、今の担当者に返済の猶予を訴えても、銀行は払え、払えの一点張りで聞く耳を持ちませんでした。
Hさんは途方に暮れた状態で、本業の薬局経営にも身が入らないといった有様でした。

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外科治療で借入金を減少

Hさんが保有している借地権の底地の保有者Sさんは当社に底地の管理を依頼していました。
Hさんが窮地に陥っている時に、Sさんに相続が発生し、相続人から相続財産の評価、納税プランの作成と実行をも依頼されました。Sさんは貸地を50以上保有していましたが、生前に測量と分筆作業、及び賃貸借契約書の整備等の準備を進めていたため、借地人の状況に応じて、底地の売却もしくは物納申請が可能な状況でした。

私はSさんの相続を報告するためにHさんを訪問したところ、Hさんの窮状を詳細に知ることとなりました。Hさんには窮状を救済できるプランがあることを告げ、後日改めて説明をしました。
そのプランとは以下のスキーム図のとおりです。

母名義のビルをHさんの法人が買い取り、借入金を7億円から3.5億円と半減させ、返済資金を減少させるスキームです。このスキームを完成させるポイントは、B銀行に担保割れの物件の売却を了承してもらうことと、Hさんの会社が他の銀行から新たな融資を受けられることにあります。幸い、C銀行はHさんの会社が底地を取得してビルと土地が完全所有権になれば、3.5億円を融資する事に同意してくれました。地主のSさんの相続人は相続税納税のための現金が欲しかったわけですから、底地の売却には二つ返事で同意しました。

あとはB銀行が譲渡を承諾することです。HさんのB銀行に対する返済がますます悪化しており、借地権付き建物を競売申請しても、元本の回収は難しいとの判断からB銀行は、譲渡を承諾しました。
B銀行は譲渡後に無担保債権が3億円残りますが、これを関連会社のサービサーに売却することによって、償却が可能となります。また母親にも3億円の債務が残りますが、無担保債権を購入したサービサーと交渉し、数百万円を数年間分割返済すれば、残債務が無くなることに合意しました。サービサーがB銀行から無担保債権を購入した時の価格は定かではありませんが、おそらく債権額に対して5,6%程度の金額だったと想定しています。
これで借入金は一気に減少しました。

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(注)現在では、保有者の親族及び同族法人への譲渡を認めない金融機関が増加したために、このスキームを使用できない可能性が増しました。しかし他の手法も考えられますので、似たような境遇の方は再生をあきらめないことをお勧めいたします。

テナント募集に工夫

借入金が減少したHさんは見違えるほど元気になりました。そこで、私はHさんが調剤薬局を営んでいるとう利点を考慮して、テナントをクリニックに絞って賃貸募集することを提案しました。クリニックの募集に強い不動産会社を紹介し、募集を強化したところ、テナントの賃料単価が上昇し、さらに契約期間も5年間という好条件を成し遂げることに成功しました。クリニックが増えたおかげで、本業である調剤薬局の売り上げも増加するという一石二鳥の結果を招き、Hさんは枕を高くして眠れるようになりました。

最後に

Hさんのように商業地に借地権付建物を保有している方は相続税の負担がありえることを認識すべきです。しかし、借金をして相続税を減少させるというプランを採用する場合には相当に緻密なシミュレーションを行うべきです。Hさんは、たまたま地主のSさんの相続を通して当社に相談をいただき、窮地を脱することができましたが、破産に追い込まれるケースも珍しくありません。Hさんも会社の顧問の税理士に相談したところ、何ら解決策を提示されなかったそうです。餅は餅屋です。借地権や底地など権利の付着した不動産に関する相談は当社のような専門会社に相談されることをお勧めいたします。

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