相続を機に借地権と底地を交換
Jさんは都内某所の借地40坪の上に建物2棟を所有し、その1棟に賃貸借契約者である母親が一人で居住していました。昨年母親が亡くなり、その後についてどうするのかを当社に相談され、その結果、一定金額以上であれば借地権付き建物を換金化(売却)したいという方針を持つことになりました。
賃貸借契約書の記載内容
目的物の表示:○○区○○ 30番7 (※住居表示となっている)
賃 料 :契約書には表記なし(※現在1,000円/坪、月額40,000円/月)
権利金 :不明
敷 金 :なし
賃貸借の目的:建物所有
建物の種類等:普通建物(種類・構造・規模・用途の制限は特になし)
建物の増改築についての特約:書面による承諾必要
賃貸借の期間:平成7年○○月○○日から平成27年○○月○○日(20年間)
建物滅失時の対応:明記なし
無断転貸・賃借権の譲渡制限:書面による承諾必要
賃料の増減額の請求:増額の請求のみ明記
賃料の増減額の基準:特になし
賃貸借の解除要件:(1) 3ヶ月以上の地代滞納
(2) 度重なる滞納等著しく信頼を害する場合
(3) 本契約に違反した場合
建物の状況
建物は2棟存在
(1) 未登記 木造平家建築後40年以上経過(昨年まで茶室等として使用)
(2) 昭和50年築、木造瓦葺2階建、(亡くなるまで母が居住)
<注、(1)の賃料は7万円、(2)の賃料は12万円が相場>
※近隣の者の建て替え等による一時貸しは可能
敷地と道路の状況
北側道路 3.65m(区道、2項道路)道路未査定
東側道路 現況1.0m(私通路?2項私道?)
敷地の間口 10.09m、奥行12.4~13.0m
現況:40坪(132m²)、登記簿:165.35m²
地域及び都市計画等の状況
徒歩でA駅より約12分、B駅より10分
戸建住居・アパートが混在する地域、古くからの借地が多く、古い建物が多い地域で、住民は高齢化が進んでいる。
第一種住居地域 建蔽率60%、容積率200%
その他
境界標なし、確定測量なし
付近の更地時価:坪当たり100万円
対象地の裏面(南側)に地主の貸家及び空地が存在
対象物件の活用法
この借地権付き建物に関して、どのような方法があるのを検討してみました。
- Jさんが地主から底地を購入して、第三者に売却
- Jさんが戸建て業者に借地権付き建物を譲渡し、業者は建物を解体して新しく借地権付戸建て2棟を分譲
- Jさんが現況のまま収益財産として活用
- Jさんが建物を建て替え、もしくはリフォームして1棟に居住し、残り1棟を賃貸に
- Jさんが現況の建物を解体し、アパートを建築
- 地主による借地権付建物の買取り
上記活用に対する地主の承諾
- 必要なし
- 借地権の名義変更→建替承諾→名義変更
- 名義変更
- 名義変更→建て替え
- 名義変更→建て替え(条件変更)
- 必要なし
借地人の意向確認
Jさんに意向を確認したところ、1,000万円以上で売却できれば処理を御願いしたいとの回答がありました。
地主との交渉
地主との関係は可もなく不可もなくといった一般的な関係ですが、地主は土地に対する執着が強く、近隣等において底地を売却していないことが判明しました。よって底地売却は同意しないことが想定されました。
また開発業者等が介在し分譲等を行い現状を変更させること(分筆)の承諾は得られないこともわかりました。地主は借地権を買い取る気持ちはありますが、手許に現金がないことと、必要ないのであれば、建物代ぐらいで土地を返還して欲しいとの意向をもっていました。さらに、測量が必要であれば協力はするが、費用負担はしないと言いました。
地主のファイナルアンサーは以下のとおりです。
「底地を売却することも借地権を買うこともしない。しかし一定条件のもとであれば、名義変更の承諾はするが、業者が介在しての2回の名義変更は承諾しない。金融機関が求める融資承諾書については、発行しても構わない。」
また承諾料との条件は以下を提示されました。
- 名義変更承諾料:売買代金の10%
- 建て替え承諾 120万円(3%)
- 裏面の活用のため、東側道路を2項としてセットバックすること。
結果
地主の条件に基づいて、借地権を購入する者を捜しましたが、なかなか見つかりませんでした。当該地は南側で地主の貸家建付地に接しています。その土地はさらに南側で道路に接道しています。
そこで、地主とJさんに対して底地と借地権を交換することを提案しました。当該地は路線価割合は60%でしたが、交換比率を5:5で提案しました。敷地の北側50%分をJさん、南側50%分を地主の完全所有権になるように分割するのです。地主もJさんもこのプランに同意しました。Jさんは建物を解体した後に、しばらく駐車場として活用していましたが、その後、土地を売却し、今は戸建て住宅が建っています。
借地権と底地の交換は敷地の地型によって、できないケースが多々ありますが、Jさんは敷地の南側が地主の土地であることが幸いしました。また、借地権の処理はあらゆる可能性を検討すべきことを改めて学んだ事例です。